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尾木ママのインフルエンザ治療薬コマーシャルについて一言いいたい。

尾木ママのインフルエンザ治療薬コマーシャルについて一言いいたい。

最近医療者の間で話題になっているというか問題あり過ぎと議論を呼んでいるTVコマーシャルがあります。

シオノギ製薬が「インフルエンザ早期治療啓発キャンペーン」と称して展開しているものです。尾木ママこと尾木直樹さんがイメージキャラクターを務めています。

http://www.youtube.com/watch?v=9KsvPM05vIw

見られた方、どう思われたでしょうか?

「ああ、そうか、早くお医者さんにかかった方が良いんだ」
「点滴の薬があるのか。良く効きそうだな」

なんて思いませんか?しかし、私たちからみると、このCMでシオノギ製薬は、自社製品「ラピアクタ」を売るためにいろんな事実をねじ曲げて伝えているのです

実際にお子さんがインフルエンザにかかられた親御さんは、その辛そうな様子を目の当たりにされていますから、「早く治してあげたい」という気持ちはよく分かります。私もタミフルなどのいわゆる「抗ウィルス薬」が全く意味がないとは思いませんし、実際結構処方します。

しかし、このCMはちょっとやりすぎだと感じています。人々に健康を提供する事を社是とする企業として、その理念に反する商売のやり方だと憤っています。

いかにその理由を書いてみます。

 

まず、「インフルエンザは早期治療が大切。」と始まりますが、これは本当でしょうか?
インフルエンザは、特に病気を持たない健康な人がかかった場合は特に治療しなくても9割方治ってしまいます。
タミフルなどの「抗ウィルス薬」の効果は、発熱、全身の痛み、鼻水咳などの症状の持続期間が2日程度短縮されるだけ(平均5日間→3日間)とされていますが、
死亡や肺炎などの入院を必要とするような重い合併症を予防する効果は今のところ世界的にも証明されていません。
このCMに出てくるような元気なお母さんたちやそのお子さんたちは、「肺炎の予防」といった意味では基本的には抗ウィルス薬を飲む・吸入する必要はなく、アセタミノフェン等の解熱薬や漢方薬などで症状を抑えているうちに治る事が多いのです。


 

次に、それではそもそもラピアクタのような点滴薬が必要な患者さんはどんな人でしょうか?
先に述べましたように、普段健康な人には基本的に抗ウィルス薬は不要です。

積極的に抗ウィルス薬を必要とする方は、心臓病や肺の病気(気管支喘息など)、糖尿病などの慢性疾患を持っている子供と大人です。(興味の有る方は、下記リンクの文書をご参照下さい。当院が依頼で配布しているものです) http://www.kontaniclinic.jp/app/Blogarticleview/index/ArticleId/25

この中から、さらに点滴薬でないといけない人は、入院治療を必要とするような最重症患者になるでしょう。人工呼吸器につながれていて内服や吸入ができないとかそういう方々です。
本来でしたら、CMではそういう方がイメージに出てくるべきだと思うのですが、そうはなっていません。

「健康な人が点滴薬受けたら何が問題なの?」という疑問が当然あると思います。
何事も過ぎたるは及ばざるがごとしです。
点滴薬の最大のデメリットは、いったん体に入ってしまったら副作用があっても抜く事ができないことでしょう。タミフルやリレンザなど、5日間かけて必要量を使う薬剤であれば使用中に問題があれば服薬を止めればすむ事ですが点滴薬はそれが出来ません。

「点滴薬って内服や吸入より効くんじゃないの?」というイメージをもたれると思いますし、例のCMもそういうイメージ作りを意図していうようにも感じられますが、実はそうではありません。

シオノギ製薬自身が出しているデータでは、服薬後の症状改善度はタミフルと同程度であって特に優れているという事はありませんでした。

以上を考え合わせると、「点滴一回で済む」が利点になるとは限らないわけです。

さて、抗ウィルス薬を使う事で起こり得る不利益も考えておくべきでしょう。
抗生物質と同じく、使い過ぎるとそのクスリが効かなくなるウィルス(耐性を獲得するウィルス)が出てくる可能性があります。

本来点滴が不要な患者さんに「濫用」されて耐性ウィルスが発生し、本来点滴薬を必要とする患者さんに効果が出なくなったら・・・・重症化して入院した自分のお子さんにそんな事が起こったらどうでしょうか?
 


最後に、医療者達が現実的に一番憂慮していることをお伝えしたいと思います。
このCMが功を奏して、流行期に患者さんたちがラピアクタを求めて外来に殺到したら何が起こるでしょうか?

点滴するには手間がかかります。点滴の針を刺すスタッフが要りますし、針が血管に入った後も何か起こらないか見守るスタッフが必要です。それがこどもだったらなおさらです。
患者さんや親御さんにとってはその場で済めばお終いで楽かも知れませんが、医療スタッフにとってはとても負担になるのです。

さて、インフルエンザの流行期に医療スタッフの手が取られると何が起こるでしょうか?
インフルエンザの時期にはインフルエンザの患者しか来ないわけではありません。中には他の重い疾患で来られる方々がいます。たとえば寒いこの時期は肺炎や気管支喘息など、インフルエンザと似た症状を呈する病気が増えますし、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系の病気も増えます。
インフルエンザのケアに手間を取られる事はすなわちこれらの重症患者さんのケアが薄くなる事を意味します。

言い方がわるいですが、放っておいても治るインフルエンザのケアのせいで重症患者さんが助けられない可能性が上がるわけです。これは私どものような診療所でもそうですし、病院の時間外救急外来ではより一層深刻な問題です。そもそも重症患者さんの治療救命が第1の目的のはずの救急外来で本来の目的が果たせなくなるという事です。

ラピアクタのプロモーションは、このようないわゆる「医療崩壊」を現実に起こし医療現場に混乱を引き起こす可能性があるのです。

 

製薬会社も一営利企業ですから、金もうけを行うことは必要です。プロモーションをすることを一概に否定はしません。しかし、このCMはちょっと許しがたい。企業理念にもとると思います。
この件に関して私はHPの「お問い合わせ」からCMの中止を求める抗議文を送りました。

http://www.shionogi.co.jp/information/inquiry_entrance.html

尾木ママにもちょっとがっかりですが、おそらくこういう事実を知らず善意で引き受けられたものと想像します。尾木直樹さんにもHPから情報を送らせていただきました。
http://ogimama.sakura.ne.jp/contact
 

みなさまもこの内容にご賛同いただけましたら、上記リンクからコメントをお送りいただければと思います。

長文を最後までおつきあいいただきありがとうございました。

2013-12-26 21:51:19

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コメント

宝樹先生、コメントありがとうございます!
大御所の先生方から続けてコメントをいただけて恐縮です。

>売れないのはそれなりの理由があるからで、多くの、殆どの医師がまっとうなインフルエンザ治療を行うと、そんなに売れないのは当たり前ですね。

私の持つ違和感はそういうことだと思います。
もっともこの問題、製薬企業だけが問題なのではなくて、
私たち医療者サイドの問題、
一般市民の医療リテラシーひいては教育の問題、
もっと広くは核家族化・少子化による我が国の家族構造の変化、病気になってもなかなか仕事を休めない企業・就労文化など複雑な背景がありますね。

この点でいうと、尾木さんはむしろ被害者なんではないか?と想像しています。

紺谷 真(ブログ主) / 2014-01-14 08:55:47

売れないけど、タミフル、リレンザ耐性インフルエンザの報道もあり、こっちを売りたいんでしょう。売れないのはそれなりの理由があるからで、多くの、殆どの医師がまっとうなインフルエンザ治療を行うと、そんなに売れないのは当たり前ですね。なんでも英国ではまだ治験PhaseIIだとか。尾木ママのHPから紺谷先生のHPを引用して、抗議のメールを送りました。塩野義製薬のこの担当者メールアドレスはinfluinfo-cm@medical-bs24.comです。こちらに抗議メールを送りましょう。

宝樹真理 / 2014-01-13 11:35:30

原先生、コメントありがとうございます!
CMを打つのは全然構わないのですが、そのやり方が社会的に問題あると思い書き込みました。
かばうわけではありませんが、尾木さんは医療については素人ですから、素朴に役に立てると考えられてCMのキャラクターを引き受けられたのではないかと私は思っています。

先生のご経験を教えていただき勉強になりました。ラピアクタはアドレナリンのように緊急の際にこそ使われるべき薬剤ということですね。

紺谷 真(ブログ主) / 2014-01-10 15:58:49

シオノギはあまりにも売れないのでコマーシャルを出したのではないでしょうか?尾木直樹さんにもがっかり、無料で出演されているわけではないのでしょうから、出るからには責任がありますね。私は1本だけいつもできる用意しています。2009年、低酸素を呈している患者さんの入院先に困りましたので、当方で酸素を吸入してもらいながら治療開始ができるために用意をしたのです。期限きれでいつも捨てています。今、使える4つの薬剤に効果の上で優劣はあまりないと判断しています。

原 朋邦(小児科医) / 2014-01-10 14:32:32

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